二上山北麓遺跡|二上山博物館で見る、瀬戸内技法によるサヌカイトの国府型ナイフ形石器

石器に使われた二上山のサヌカイト

奈良県と大阪府のちょうど境に位置する二上山(にじょうさん)。雄岳(517m)と雌岳(474m)が並ぶ姿がなんとも優美ですが、1500万年前は活発な火山活動が行われた山です。この火山活動では安山岩質や流紋岩質のマグマや火山灰が噴出し周辺を埋め尽くしました。

二上山|奈良県葛城市から撮影

このとき出来た岩石は安山岩の中でも「サヌカイト」と呼ばれるものです。サヌカイト(讃岐岩)と言うと、香川県(特に五色台)のみに産出する石のようにも思われますが、実は二上山も代表的な産地です。五色台も二上山も同じ頃(1500万年前)に活動した瀬戸内火山帯に属します。サヌカイトはガラス質で鋭く割れるため、旧石器時代の近畿地方ではナイフ形石器のための重要な石材となりました。

二上山産サヌカイト|二上山博物館

日本の(後期)旧石器時代は、約4万年前から3万年前までの前半期と、約3年前から1.5万年前までの後半期の2時期に分けられます。ナイフ形石器は前半期の終わり頃に確立し、後半期に入ると地域特有の石材が用いられるようになって、それにともない制作技術も進化して地域色が強まっていきました。

北海道、関東、中部、九州では黒曜石が用いられる一方、近畿、中四国ではサヌカイトが用いられました(東北では頁岩が用いられた)。そして、東日本や九州では石刃技法(せきじんぎほう)が発達したのに対して、近畿や中四国の西日本では瀬戸内技法が進化しました。

ナイフ形石器|二上山博物館
ナイフとは言うが、実際の用途は分かっていない。槍先につけて刺突したとの説もある。

石刃技法とは、石材の割れやすい方向に沿って縦長の剥片を削ぎ落としていく石器製作技法です。縦長の剥片を「石刃」と呼びます。出来上がったナイフ形石器の刃は石材の割れやすい方向にそっています。

では、瀬戸内技法とはどのようなものなのでしょうか。二上山博物館で見ていきましょう。二上山の北麓では石器の製作場所と想定される遺跡がいくつも見つかりました。二上山博物館では、その遺跡群で出土した石器が展示されています。

瀬戸内技法による国府型ナイフ形石器

瀬戸内技法では、まず原石を打ち欠いて「盤状剥片」というものをつくります(第1工程)。

原石|二上山博物館
サヌカイトの石礫。石器の原石となる。
盤状剥片|二上山博物館
原石を打ち欠いて最初にできる剥片。断面側が刃になる。

この打ち欠いた割れ面の方は刃となるため手を加えず、反対側の表面に粗い加工を行いながら、割れ面に対して斜めに薄くスライスし「翼状剥片」を取っていきます(第2工程)。

盤状剥片から翼状剥片へ|二上山博物館
盤状剥片の表面(断面の反対面)に調整を加えた跡、断面に対して斜めにスライスする。

こうしてできた「翼状剥片」は刃と反対面をさらに加工され、ナイフ形石器となります(第3工程)。翼状剥片と呼ぶのは、できあがった断面が鳥の翼の形に似ているからです。縦長剥片をつくる石刃技法とは異なり、割れやすい方向と刃が平行しないため、横長剥片とも呼ばれます。

翼状剥片|二上山博物館
刃と反対側をさらに調整する。
国府型ナイフ形石器|二上山博物館
前の工程で調整を加えた側だけギザギザになるのが特徴。

正しいイメージか自信がありませんが、じゃがいもの調理を思い浮かべると分かりやすいです。まずは大雑把に切断して、できた小塊の皮を剥き、切断面をまな板につけて包丁を斜めに入れながらスライスしていくプロセスです。

この技法では、スライスするたびにほぼ同じ形の翼状剥片(横長剥片)が取れるため、規格化されたナイフ形石器ができあがります。瀬戸内技法で作られたナイフ形石器は特に「国府(こう)型ナイフ形石器」とも言われます。大阪府藤井寺市の国府遺跡(こういせき)で発見された型式の石器のためそのように名付けられました。製作プロセスでも分かるとおり、刃側には一切加工が入らないため、刃の反対側にのみ加工(ギザギザの側面)が入るのが特徴です。

国府型ナイフ形石器|二上山博物館

石刃技法がユーラシア大陸に広く見られる一方で、瀬戸内技法は日本の近畿・中四国地方で独自に発達した技法です。この技法の発達は石材としてサヌカイトが用いられたことと関係があると思われますが、サヌカイトの特性をどのように活かしているのかはよく分かりませんでした。

二上山では、サヌカイト原石の採掘坑も見つかりました。径2.5〜3.2m、深さ1.0mで、中からはハンマーストーンや石礫が出土しました。採掘のための道具や残骸を廃棄したものと見られます。旧石器時代、石器製作のための原石は河原などに落ちているものを利用することが一般的で、穴を掘って岩石を採掘することが一般化するのは縄文時代になってからです。まとまった労働力を必要とする採掘にまで及んだということは、二上山周辺の旧石器人にとって、原石の入手環境になにか重大な変化があったのでしょうか。

サヌカイト採掘現場|二上山博物館(想定模型)

この採掘坑跡では石器自体の出土は少なく、石器製品は北麓の遺跡群など別の場所で行われました。さきほどの国府遺跡や翠鳥園(大阪府羽曳野市)でも石器が製作されたようです。

二上山のもう一つの石材"凝灰岩"

二上山では安山岩質のサヌカイトのほか、流紋岩質の「凝灰岩」の産地としても有名です。凝灰岩は柔らかく加工がしやすいため、古墳時代から飛鳥時代にかけて、古墳の石棺や石郭として使われました。

二上山凝灰岩家形石棺|二上山博物館
底石・蓋石の一部は古墳時代当時のもので、その他は二上山凝灰岩を用いて復元。

二上山で採掘された凝灰岩の利用事例として有名な古墳は、世界遺産にもなった高松塚古墳の石郭です。いまでも二上山には石棺や石郭の当時の石切場が残っています。

二上山石切場

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